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ウイルス感染症の後遺症

 新型コロナウイルス感染症の後遺症が問題になっています。発熱・呼吸困難などの急性期の症状が取れた後で、咳、倦怠感、味覚嗅覚障害などの症状が残り苦しむことをいいます、感染の症状が重症でない方でも後遺症に悩んでいる人がいます。  漢方の病気のとらえ方の一つに傷寒論(しょうかんろん:*1)の6病位の考え方があります。傷寒(しょうかん:熱性の重症伝染病の事、チフスなど)は6の段階(ステージ)で変化してゆくと書かれています。太陽病(たいようびょう)→陽明病(ようめいびょう)→少陽病(しょうようびょう)→太陰病(たいいんびょう)→少陰病(しょういんびょう)→厥陰病(けっちんびょう)(*2)の順です。最初の3段階は発熱・頭痛・便秘などがあるいわゆる急性期、あとの3段階は腹部膨満・腹痛・下痢・倦怠感・冷えなどのある状態で多くの場合は亜急性期、慢性期です。適当な薬、養生を行うと治癒力が病邪に勝り治ってゆくのです。  当院ではまだコロナの後遺症の患者さんは診ていませんが、ウイルス感染の後で、食欲不振、倦怠感が続いたり、咳が残ったりするということで受診されることも多いです。そのような場合は感染症が完全に治っていない場合と、感染の状態はほぼ治ったががアレルギー、胃腸病、心臓疾患などの持病が悪化した場合、体力が完全には回復していない場合に分けられます。  風邪が治っていない場合は病気がどのステージにあるかを診断し、太陽病なら 柴葛解肌湯 (さいかつげきとう)類、陽明病なら 白虎湯 (びゃっことう)、 麻杏甘石湯 (まきょうかんせきとう)、 承気湯 (じょうきとう)類など、少陽病なら 柴胡桂枝湯 (さいこうけしとう)、 柴胡桂枝乾姜湯 (さいこけいしかんきょうとう)、 竹じょ温胆湯 (ちくじょうんたんとう)など、太陰病なら 桂枝加芍薬湯 (けいしかしゃくやくとう)類、少陰病なら 真武湯 (しんぶとう)、 四逆湯 (しぎゃくとう)など、厥陰病なら 補中益気湯 (ほちゅうえっきとう)、 十全大補湯 (じゅうぜんだいほとう)などを処方します。持病が悪化した場合は持病を改善する薬を、体力の回復ができていない場合は太陰病、少陰病、厥陰病期の処方を中心に疲労感を取る薬を処方します。 次回は9月半ばに更新予定です。 備考 *1:3世紀はじめに中国で編纂されたと考えられている医学書 *2:太陽病、少陽病、陽明

嘔吐と漢方薬

5月15日に四国は梅雨入りしました。例年より20日も早く今年は季節が早く動くようです。当院でも4月ごろから、風邪薬として かっ香正気散 (かっこうしょうきさん)を処方することが多くなりました。一か月くらい処方の時期が早いようです。かっ香正気散は平胃散(へいいさん)という胃薬をもとにして作られた処方で、例年梅雨時から夏場にかけてこの処方が多くなります。このように季節が予定より早く来る状況は、体が季節についていけず病気が起こりやすくなります。 また、これから夏場にかけて冷蔵庫のものや、冷房で胃腸を冷やしておなかをこわしてしまうことが多くなります。食事と室温には十分注意してください。おなかの症状として嘔吐をともなうことがありますが、結構つらいものです。 嘔吐は延髄の嘔吐中枢に刺激が伝わりその反応で起こります。刺激のルートは①(副交感神経を通して)胃腸・心臓などから②耳の前庭系から③腦‣髄膜の刺激から④延髄の化学物質の受容体の刺激から の4つです。 嘔吐というと直感的に胃腸の疾患と考えてしまいがちですが。 急性心筋梗塞 などの心臓病、良性発作性頭位めまい症(BPPV)、脳腫瘍・髄膜炎・緑内障など、薬物(アルコールが有名)、糖尿病性ケトアシドーシス、姙娠、 卵巣念転 、 精巣捻転 。などによっても起こり、中には命に係わる病気の可能性があります。胃腸疾患でも 絞扼性イレウス 、 急性虫垂炎 、急性膵炎のようにすぐに手当てが必要な病気もありますので、下痢を伴う典型的な胃腸炎以外は原因疾患を調べるようにしましょう。 嘔吐の治療としては原因疾患を治療することが基本でが、嘔吐が続けば日常生活が営えません。嘔吐を止める治療が合わせ行われます。治療薬としては抗がん剤による嘔吐は別にすると、メトクロプラミド(内服、注射液)、ドンペリドン(内服、座薬)などのドパミン受容体拮抗薬をもちいて消化管の動きを改善します。 漢方薬も嘔吐に処方されています。生姜(しょうきょう)乾姜(かんきょう)が入った処方がもちいられることがほとんどです。生姜は「 嘔家の聖藥 」といわれ半夏とあわせて嘔吐に用いられてきました。胃炎・胃腸炎に 二陳湯 (にちんとう)、 生姜瀉心湯 (しょうきょうしゃしんとう)、姙娠悪阻に 小半夏加茯苓湯 (しょうはんげかぶくりょうとう)、 乾姜人參半夏丸 (かんきょうにんじんはんげがん)な

不眠と漢方薬

 春眠暁を覚えず。春は何となく体が重くつい朝寝をしてしまう方も多いと思います。しかしながら年度替わりの忙しさで体調や生活リズムを崩したりして、よい睡眠を取れない人が多くおられます。  睡眠障害には眠りに入りにくい場合(入眠障害)、途中で起きてしまってそれから眠れない場合(中途覚醒)、朝早く起きてしまう場合(早朝覚醒)、ぐっすり眠った満足感が得られない(熟眠障害)があります。原因としてストレス、高血圧。糖尿病などのからだの病気、うつ病などの心の病気、薬物や刺激物、生活リズムの乱れ,環境があり、それぞれの原因に対する対処が必要です。原因や生活習慣の調整で改善せず、日中のねむけや集中力が起きる場合は薬物を用いることがあります。  西洋薬の場合ベンゾジアゼピン受容体作動薬で催眠を誘ったり、メラトニン受容体作動薬で睡眠リズムを整えたり、オレキシン受容体拮抗薬で覚醒をコントロールしたりします。うつ病や精神疾患の場合は抗うつ剤、抗精神病薬を用います。ベンゾジアゼピン系睡眠薬は依存を起こさないように短期間の使用にとどめることが大切です  漢方薬の場合、依存性の心配はありません。入眠しにくい場合は興奮をおさえる黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)抑肝散(ヨクカンサン)など、中途覚醒には安心させる目的で柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)など、朝早く起きるときは血のめぐりを調節するために、加味帰脾湯(カミキヒトウ)、帰脾湯(キヒトウ)などを使います。いずれの場合にも睡眠障害が続く場合は酸棗仁湯(サンソウニントウ)を併用します。 次回は6月に更新予定です。 参考資料(厚生労働省 e-ヘルスネット 不眠症 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html)

月経痛と漢方薬

 痛みは生活の質を下げます。仕事に集中できなかったり、気分が晴れやかになれなくなります。しかも痛みは他人には十分わかってもらえないことも多いです。若い女性の場合、 月経痛を訴える人は詳しく聞くとたくさんおられます。漢方には気、血、水が体を巡っていて、それが滞ったり、巡りが少なかったりすると病気になるとの考え方があります。月経に伴う症状は血のめぐりの異常となります。月経痛を治す処方の代表的な薬として当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、温経湯(ウンケイトウ)加味逍遥散(カミショウヨウサン)、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)などがあります。いずれも血のめぐりを調節する薬です。これらの漢方薬を月経の予定3日から1週間前から月経が終わるまでの間内服します。痛みの漢方薬はある程度即効性があります。ずっと飲むことができるるのであれば毎日内服することをお勧めします。半年から一年くらい続けると月経痛が減ってきて漢方薬を減量したり、やめることができたりします。また月経時には安中散(アンチュウサン)を併用することが多いです。安中散は胃炎に用いる代表的な漢方薬の一つですが延胡索(エンゴサク)という生薬がふくまれていて鎮痛作用があるので腹痛全般に使うことができます。月経痛の特に併用すると効果が期待できます。次回は3月末に更新します。

ストレスと漢方薬

 ストレスで健康をそこなっているひとが増えています。特にコロナが徐々に広まっている今、食べて飲んでの憂さ晴らしも控えなければいけなくなりました。また仕事のデジタル化などで仕事のやり方が変わり、結構なストレスになっている場合もあるようです。当クリニックを訪れる方で30%くらいは何らかの手当が必要なストレスを抱えています。  漢方薬治療を行っていますとこの処方で効果があるはずだと思うのに効果がないことがあります。多くの場合は風邪をひいている(ウイルス感染が続いている)か、ストレスのために薬に体が反応しないときです。風邪の場合はまずその治療を行ってから、その人の困っている症状を治療する漢方薬を処方します。ストレスが影響しをている場合は、ストレスを調節する漢方薬を単独でゆくか、最も困っている症状を改善する漢方薬とストレスの薬を兼用します。  ストレスの原因でもっとも多いのは親の病気・介護の問題、次いで家庭内の問題(子供や配偶者の病気、子供の不登校など)、あと仕事の人間関係、自分の健康の問題・お金の問題とつづくようです。これらのストレスは初めは自覚しにくく、しかも慢性化しやすいものです。心療内科・精神科を受診して抗精神病薬・抗うつ剤を飲んでいる方も多いです。  漢方診断的には心包経・三焦経、肝経・胆経という漢方でいう流れ(経脈)が乱れています。肝経・胆経の乱れのある人はイライラしていることが多く、漢方薬では 柴胡加竜骨牡蛎湯 (さいこかりゅうこつぼれいとう)、 加味逍遥散 (かみしょうようさん)、こじれてしまっているときは 四逆散 (しぎゃくさん)などを処方します。心包経・三焦経が乱れている場合は、ある程度時間が経っていることが多く、 加味帰脾湯 (かみきひとう)、 帰脾湯 (きひとう)、 抑肝散 (よくかんさん)などを処方します。薬の効果が出てくれば徐々に減薬し、廃薬します。ストレスの影響が取れれば残っている症状は素直に治療に反応することが多いようです。 次回は令和3年1月末に更新予定です

気管支喘息と漢方薬

 秋分が過ぎ10月8日は寒露。朝夕が肌寒くなりました。65歳以上のかたのインフルエンザの予防接種も10月1日から始まります。そろそろ風邪がはやり始める時期です。特に今年は新型コロナウイルス感染症にも注意が必要です。この時期にアレルギー体質の人が風邪をひくと咳が止まらなくなったり、喘息もちの人は喘息が悪化しがちになります。  気管支喘息の治療はガイドラインに従って治療します。基本は炎症を抑えるために吸入ステロイドを用います。さらに気管支を開くテオフィリン製剤、アレルギー反応を抑えるロイコトリエン受容体拮抗薬など、さらに重症の場合は交感神経作動薬入りステロイド吸入、経口ステロイドなどを併用します。  漢方薬で治療する喘息は軽症のものが主となります。その場合でも多くの場合は吸入ステロイドを併用します。実際の治療は患者さんを症状や漢方的診察で肝‣心(心包)・脾・肺‣腎の五つのグループ(五蔵)に分類します。漢方薬処方としては、腎の働きを調整する 五虎湯 (ごことう)、 神秘湯 (しんぴとう) 苓甘姜味辛夏仁湯 (りょうかんきょうみしんげにんとう)など、脾の働きを調整する 麻杏甘石湯 (まきょうかんせきとう)喘四君子湯(ぜんしくんしとう)など、心(心包)の働きを調整する 小青竜湯 しょうせいりゅうとう) 柴朴湯 (さいぼくとう)を用います。 漢方薬は一見対症療法に見えますが経脈(けいみゃく)というネットワークを通じて五臓の働きを調整し、全身状態を改善するため病気を起こりにくくします 。     次回は11月末に更新します

頭痛と漢方薬

 頭痛は頭の中(腦脊髄)や外(顔面、頭頚部筋肉皮膚)に加えられた刺激が大脳皮質に伝えられて起こります。外傷がないかどうかを先ず調べ、なければ1次性頭痛(原因不明)、2次性頭痛(頭蓋内、顔面、全身の病気など原因がはっきりしているものによる)に分けて治療します。  1次性頭痛は、片頭痛、緊張性頭痛、群発頭痛に分けられます。漢方薬はそのうち、片頭痛、緊張性頭痛に効果があります。片頭痛は多くは片側に起こり、痛みは拍動性でアルコール、チョコレート、赤ワインなどが誘引となることがあります。吐き気や光がまぶしかったり、ギザギザの光を感じる前駆症があったりします。神経伝達物質のセロトニンが関係しているので、セロトニン受容体作用薬のスマトリプタンを内服するのが標準です。鎮痛剤も兼用します。漢方薬では呉茱萸湯(ごしゅゆとう)を使います、吐き気には二陳湯(にちんとう)小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)、むくみあれば五苓散(ごれいさん)を併用します。  緊張型頭痛は頭両側の圧迫、締め付けられる感じの頭痛でストレスが基本にあることがほとんどです。鎮痛剤(ジクロフェナックNa,アセトアミノフェンなど)を使います。スマトリプタンを併用することもあります。漢方薬では葛根湯(かっこんとう)葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)を使います。ストレスの関与が多ければ抑肝散(よくかんさん)、女性で更年期症状があれば桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)なども併用します。 群発頭痛は片側で眼の周囲こめかみのあたりを中心に激しく爆発的な痛みを生じます。たばこ、アルコールなどが引き金になることがあります。酸素吸入やスマトリプタンで治療します。漢方薬では急性期には呉茱萸湯、五苓散を、慢性期には清上けん痛湯(せいじょうけんつうとう)などを使いますが、漢方薬のみでは十分な効果が得られず、スマトリプタン、鎮痛剤を併用することがほとんどです。 2次性頭痛はそれぞれの原因に対する治療を行います。  頻度は少ないですが脳血管疾患、脳内感染症、脳腫瘍、緑内障、側頭動脈炎の症状として頭痛が出ることがあります。これらの疾患はすぐに治療する必要があります。頭痛で今までと違う痛みや強さのときは自己判断せず、医療機関にかかることが大切です。 (頭痛の原因分類については問題解決型救急初期診療第2版 田中和豊著を参考にしまし